自然に囲まれた生活

そのプラスと意外なマイナス

都市の喧騒から離れて、豊かな自然に囲まれて暮らす。自分が種子から育てたハーブで入れたお茶をゆったりと楽しむ。朝は窓から差し込む朝日と、可愛らしい鳥の囀り声で目覚める。こうした文言は、いっとき、女性週刊誌やログハウスの広告などでたくさん見かけたものです。そういえば、今では聞かなくなった「ロハスな生活」といったコピーもありましたね。さて、本当に自然が多い暮らしはそんなに良いことづくめなのでしょうか?

根っからの都会っ子だった私が、静岡の山暮らしを始めたのは、かれこれ二十年近く前のことです。とはいっても、さすがに上記のような文言を信じて、ふわっと気分でいきなり転居したわけではありません。都内で借りていた事務所兼自宅が売却されそうだ、というのがわかってから、数年かけて移転先を探す余裕がありました。家人が静かな土地で暮らしたいという希望だったので、都会ではなく、自然が多い場所を色々と見てまわりました。もちろん、最初のうちは「小さな家庭菜園とかできたら良いな」とか「ログハウスで木の香りに包まれた暮らし」などをなんとなく考えていました。でもですね、そのあたりは全て幻想の霧の彼方に消え去りました。

ここからはあくまでも私の経験論ですから、絶対にこうなる!といったものではありません。それに私が暮らしているのは、山の中といっても別荘地として開発された地域なので、田舎暮らしによくありがちな「新入りといって仲間外れにされる」とか「プライバシーがない」ということはありません。その辺りを踏まえて続きをお読みください。

田舎暮らしの欠点

とにかく、虫が多いです。雑草もあれば雨水が溜まるところもあるので、蚊、藪蚊、ブヨその他もろもろが、暖かい季節にはブンブンと飛び回っております。私も慣れない頃はブヨにやられて病院に駆け込みましたし、GWや夏休みなどには、お酒を飲んだ上に半袖・短パンで散歩して身体中を藪蚊に刺されたヤングたちが、夜中に発熱して救急車沙汰になることも少なくありません。これを避けるには、常に長袖と長ズボン、靴下をちゃんと着用することと、虫除け剤の常用が必要です。さすがにスプレーをガンガン使うのはなんだかな、という気持ちでしたので、途中からハッカ油に切り替えましたが、面倒なのはさして変わりません。窓や玄関を不用意に開ければ、あっという間に家の中にも入ってきますし、初秋にはスズメバチも来ますから、気が抜けません。

当然、建築材にも虫はつきますから、おしゃれなログハウスには強力な殺虫剤の定期的な散布が欠かせません。それでもシロアリの被害は絶えないと経験者に聞いて、引っ越し前に諦めたのは今では笑える思い出です。それ以外でも、晴れた日にお弁当持ってお外でピクニック、なんていうのも、たかってくる羽虫や蟻との戦いになるだけなので、大抵は車の中で食べることになります。

案外、環境に悪い暮らし

そう、この「車」が田舎暮らしには不可欠です。買い物にも、病院に行くのにも、車がないと何もできません。これも、都会暮らしの人間の「自家用車なんて環境に悪いだけ!」といった感覚を捨て去るしかありません。一日に数便しかないバスに乗り遅れたら、駅まで歩けばいい??駅まで二十キロとか山あり谷ありの道を歩くんですか?タクシーだってなかなか来てくれませんし、毎回、何千円もタクシーに使うのは無理です。我が家は買い物はできるだけまとめて、あまり車は使わないようにしていますが、それでも自転車では生活できません。

まとめ買いになるので、冷蔵庫や冷凍庫は大きいものが必須ですし、都会のように何かとコンビニへコピーを撮りに行ったりはできませんから(片道、うん十分。しかも夜は閉まります)さまざまな事務機器も自前で揃えるしかありません。結果的に、都会で暮らすよりは電力の消費量がどうしても増えてしまいますね。

と、全然ロハスじゃない生活が待っていました。それに加えて、私が一番悲しかったのは「ウィンドウショッピングがほとんどできない」のと「散歩がてらにフラリと新しいお店を発見することがない」ことでした。たまに街に降りて行く際には、この店に行く、ということで直行しますし、大抵は大量買いに対応できる量販店になってしまいます。そして、どの店も結局はそれなりの駐車場がないとやっていけないので、街中のように、歩道から覗き込んで興味を持てる喫茶店なんてありません。第一、人口が少ないので、ほとんどの店はチェーン店のスーパーか、ファミレスしかないんです。

木々を渡る風の音も

ええ、すごい数の木がありますから、風情があるどころか騒音になります。亡くなった私の父を招いたとき、やはり都会っ子だった父は「うるさくて寝れない!!」と怒っていましたっけ。そして春から秋までは、いったいなんの事件があったんだ?!と驚くほどの鳥の合唱で目が覚めます。夏の夜明けと夕暮れどき、ヒグラシの鳴き声なんてもう、頭を殴られるような轟音です。

また先ほどコンビニまで遠いと書きましたが、そのせいで毎日三食がほぼ、自炊になります。東京にいた頃は朝食以外は徒歩五分のコンビニレストラン!なんていう日はけっこうありましたが、それもできません。地元の食材を活用した自炊、などというと聞こえはいいですし、確かに近所の青空市場には新鮮な季節の野菜がとても安く並びます。でもここでも都市生活者の夢は砕かれました。「季節の野菜」ですから、冬ならば白菜と大根、春ならば菜花、といった具合に一種類か二種類の野菜ばかりが大量に手に入るんです。工夫にも限界がある、と知る瞬間です。

庭先でのハーブの自家栽培や、小さな家庭菜園といった夢も、夜な夜な地面を掘り返しにやってくる猪たちのおかげで消え去りました。ご近所で家庭菜園をなさっている方々は、地域の農家の方が電気柵などをしっかり装備した畑を借りて作物を作っておられるご様子。それくらいしないと、野生動物からの害は避けられませんし、裏庭での作物で猪を自宅に呼び寄せてしまったりしたら、危険で仕方ありません。

山で暮らす長所とは?

と書き連ねてしまいました。便利さやふらりと気が向いたままに行動する自由を大切にしたいのであれば、都市生活の方が断然、お勧めなんです。じゃあ、自然に囲まれた生活なんて止めた方がいいのか、多くの魔女術の書籍に書かれていることは嘘なのか、という結論に辿り着いてしまうかもしれません。これには決まった回答はありませんが、あなたが都会の生活にプラスアルファする形で自然を楽しみたいと考えているのであれば、止めた方が良いかもしれません。実際、山に引っ越してきても「こんなはずではなかった」と都会に戻るご家族は少なくありません。それができる経済状況であれば良いのかもしれませんが、なかなか難しい場合も多いですよね、

私自身は、正直、都会の良さを忘れることはありませんが、今ではこの暮らしが気に入っています。なんといっても空気が綺麗ですし、うるさいほどの自然の音は、ガイアが何を語りたいのかを教えてくれるように感じています。しんと静まり返った冬の夜に見上げる満天の星々、空から降ったままで汚れることなく溶けて行く雪。春先に芽吹く木々が発する香り。その全てに大地の女神の姿を垣間見て、彼女の声を聞くことができます。その瞬間の感動のためには都会を捨ててよかった、と思えるのです。そんな奇跡の瞬間を求める人ならば、自然に抱かれた暮らしは、とても有意義になるのかもしれません。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!