哲学と文学での推薦図書

肩の力を抜きましょう

前回のブログでは、魔術の基礎知識として押さえておきたい宗教関連の読書をざざっと挙げてみました。今、読み返してみると駆け足なのは当然ながら、ちょっとばかり固い書物が並び過ぎかな、とも反省しているところです。今回はもう少し、読書としても楽しめそうなもの、具体的なテクニックなどが説明されているものなどを挙げていこうかなと考えています。

宗教は魔術の大きな一面を担いますが、もう一つの大きな側面を担っているのが、哲学でしょう。それもキルケゴールやハイデッガーといった現代哲学よりは、古代ギリシアのソクラテス、プラトン、アリストテレスなどの思想です。ということで、まずは彼らの作品が必読書になります。

最初は誰もが学校でその名を習うソクラテスから。彼の著作というよりは対話の記録である『ソクラテスの弁明』は、とても重要です。のちにプラトンが引き継ぐ対話形式での思考の発展が、ここではシンプルに表現されていて馴染みやすいこともありますが、何よりも我ら魔術の学徒が避けて通れない「エレウシスの秘儀」について語られている、数少ない同時代の文献でもあるからです。これは学校で半ば無理やり読まされた、という人も少なくないと思いますが、新たな視点で読み直してみるときっと面白いと思います。

そして、ソクラテスの弟子であり、イデア論を打ち立てたプラトンも無視できません。彼の思想を継いだのちのネオプラトニズムがキリスト教の教義の元となり、ひいては近代西洋魔術理論の大元にもなっているからです。彼の著作はとても多いのですが、たいていの図書館にはプラトン全集のような書籍があるはずですから、借りてきて読みやすそうなものから挑戦してみるとよいでしょう。どれも難しそうに思えたら、未完ではありますが『クリティアス』から読み始めると、少し興味が湧きやすいでしょう。この本こそ、かの有名なアトランティス大陸に関する伝説の始まりなのです。

次にどうしても読んでおきたいのはプラトンの弟子にあたるアリストテレスの著作です。彼の『自然学』は四大エレメント理論の基礎ですし、『天体論』は天動説を完成させた書であり、ここで語られるアエティールは、のちのエノキアン魔術に至るまで、さまざまな魔術的宇宙論の要となるものです。アリストテレスの思想は、占星術、錬金術などの基礎でもあります。これもやはり、図書館に頼って、さまざまな著作を読んでみるのがお勧めです。

古代ギリシア演劇も

このあたりを抑えたら、ちょっと寄り道して古代ギリシアの演劇ものに目を通しておくのも良いでしょう。スフィンクスが象徴的に現れる『オイディプス王』やバッカス(ディオニソス)信仰の狂乱ぶりを描く『バッカスの信女』などは、現代人の視点で見てもハラハラドキドキできる読み物です。

ギリシアの次は、カバラの大元『セフェール・イェツラー』もリストに入れましょうか。複数のヴァージョンで日本語にも翻訳されていますし、割と短いので読了するのも簡単です。これが後の薔薇十字紋様などの大元になる、と気をつけながら読むのが肝心!もちろんカバラにはもっとたくさんの重要な文献がありますが、理解しやすいものは二十世紀になるまで待たないと出てきません。焦らなくても良いでしょう。

この辺りで古典はとりあえず、良いんじゃないかな、という感じです。もちろん、他にもエメラルド・タブレットとか、色々な古典はあるのですが、極端なことをいえばどれも似たり寄ったりな内容が多いので、余裕があるときに手に取れば十分だろうと思います。なお、これくらい資料を読み進めてくると、自分の東洋人としてのアイデンティティに疑問を抱き始めるでしょうから、そうなったら孔子の言葉を集めた『論語』あたりに頼るのも良いかもしれません。

キリスト教関係の思想、特にスコラ哲学などを学ぶのも良いのですが、私見でいえばかなり退屈なので、これも後回しにできるような気もします。それにですね、スコラ派の代表選手であるトマス・アクィナスの『神学大全』は、まさにその名に恥じない大著なので、読むのも大変ですし。それよりも、お勧めはイエズス会の創始者であったイグナチオ・デ・ロヨラが書いた『霊操』でしょう。ここには誘導瞑想、能動的瞑想の技術がぎっしり詰まっているからです。

また、西洋神秘学の世界観をもう少し柔らかく知りたいな、と思われるのであれば、ダンテが書いた『神曲』が楽しいでしょう。天国・煉獄・地獄、がわかりやすく描写されていますし、色々な悪魔が出てくるのでちょっと厨二心も満たされるはずです。

そして本丸!

やっぱり忘れてはならないのは、アーサー王伝説!近代西洋魔術やタロットカードにうんざりするほど出てくる「聖杯」のモチーフを理解するためには、欠かすことができません。アーサー王伝説には非常に多くのヴァージョンがありますが、日本で手に入りやすい書籍は文庫本の『アーサー王の死』ですね。ただそれだけだと、イメージが湧きにくいと思うことも多いでしょう。幸い、アーサー王伝説については多様な映画も作成されていますから、そうした映画を鑑賞してちょっと息抜きをすることも可能です。内容は玉石混淆ですから、アニメになっているものを避けて、満遍なく見ていくと良いでしょう。私の個人的なお勧めは 1981 年にリリースされた『エクスカリバー』でしょうか。いや、若い頃のパトリック・スチュワート(ピカード艦長!!)が出ているからとか、若きガブリエル・バーンが好みだからとかだけではなくてですね、あまり余計な二次創作をつけていないので、オリジナルの雰囲気を味わいやすいから、です。

今回の締めに。意外かもしれませんが、魔術的なヒントが多く入っているのがシェイクスピアの作品群。中でも魔女たちの呪文が印象的な『マクベス』や魔術師プロスペローが活躍する『テンペスト』は必須なのです。シェイクスピアの作品は本国イギリスの BBC から原作に忠実なドラマが出ています。今ではこのシリーズも DVD で入手できるようですから、そちらで楽しんでも良いでしょう。本ばっかり!!といううんざり感を軽減してくれること、請け合いです。青筋を立てて本ばかり読んでいないで、楽しみながら学習を進めていきたいですね。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

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