魔術の基礎とお金
学びを得る対価とは


私は日頃、SNSなどで気軽に魔術を始めようとする人たちへの注意を発信しています。小難しいことをいわなくても、楽しめることから始めればいい、そんな意見が多い昨今では、とても嫌がられて「老害」などと呼ばれているのも承知しています。いくら私がクローン(老婆)だからといって、そんなふうに呼ばれて嬉しいわけもありませんが、それでも言い続けるのは魔術はあなたを変えてしまうものだからです。
昨今、雨後の筍の如く湧いて出ている自己啓発セミナーの胡散臭いテクニックなどとは違って、長い歴史のある魔術の技法は良くも悪くも確かに実践者を変えるのです。その変わり目にきたとき、基礎ができていなかったらどうなると思いますか?砂上の楼閣どころか、自分の暗黒面という沼地に沈み込むだけです。特にそれが、性魔術などといった術者の心身の深層に影響を及ぼすものだった場合、不用意な術者に対して効果が発揮されてしまったならば、その当人は廃人か病院送りになるだけです。あらあらそこで、自分はなんともなかったよ、としたり顔で言っているあなた、変化が訪れなければそれは魔術ではありません。つまりあなたは、単なる「ごっこ遊び」をしただけ、という可能性があるとは考えられませんか。
とはいっても、日頃行ってきたSNSなどでの発信にはどうしても限度があります。そこで長年悩んだ末に、今年の四月から『魔女術実践学習ワークショップ』として、魔術の世界に踏み出していく基礎のワークショップを始めました。魔女術とは銘打っていますが、西洋魔術の基礎はどれも同じですから、一年間のコースを完了してくだされば、儀式魔術の世界にも安心して入っていけます。
脱落者が出ない!
でもそれだけに、真面目すぎる授業が続いています。特に「汝自身を知れ」という金言と向かい合う一学期は、さまざまな発見もありますが、地道な作業です。正直、私は多くの方がこの一学期で脱落してしまうのではないか、と危惧、いや、半ば覚悟していました。でも実際はほとんどの方が楽しく学習を続けてくださり、今は四大エレメントの力を学ぶ二学期に入っていますし、名古屋と東京では二期生の方々も学び始めてくださっています。これはとても嬉しい驚きでした。そして、皆さんが自分と向き合い、外の世界へ変化へと歩み出す道程を助け、見守らせていただいているのは、本当に名誉なことだと感謝しています。そして、二年目の課題も考え始めていますので、今後の発展を楽しみにしていただければと願っています。
ただ、このワークショップが続くようになると、これもまたSNSなどで「料金を取って魔術を教えるのは邪道だ」とか「自分ならば無料で実行する」といった当てこすりめいた批判も目にするようになりました。
無料の是非
自分ならば云々、という方が本当に何かを始めた試しは今まで見たことがないので、ああまたか、としか思いませんが、もしそんな講座が始まったら素晴らしいことですから、それはそれで期待しております。でももう一つの「料金を取って魔術を教えてはいけない」という点は、ちょっと色々な誤解が重なっているように思えるので、私の考えを話しておきましょう。
まず、私の講座には高校生以下の学生はいません。大学で学ばれている方もいますが、実質、みなさん、社会人です。そしてそうした人たちにとって高過ぎない受講料を設定しています。確かに「霊的作業に金銭を取ってはいけない」というアレイスター・クロウリーの言葉は有名ですが、厳密に言えばこれは、彼が作ったA∴A∴という魔術結社内での条文に過ぎません。私はそこに所属していませんから、それに従う必要はありません。そして、昔からどんな修行にも道場の掃除や薪割り、水汲み、といった労役が課されていたものであり、そこには深い意義があるのです。とはいえ現代では、そうした作業を実践するのはかなり無理があります。なので、受講料を得るための労働がその代わりに当たると考えて良いのではないでしょうか。
それでも、受講料を準備するのが困難だという方がいるのもわかっています。そうした方には、私が書いた書籍は多くの図書館に入っていますし、お金を出して買ったとしてもそれほど高額ではありません。そして、私はできる限りの質問は受け付ける、と常に公言しています。講座を取るのは少し早道になるかもしれませんが、それ以外の方々への道を閉ざしているわけではありません。
そして、自分ならば無料で講座を開催する、といった声には、正直なところ疑問しか感じません。昔から「ただより高いものはない」という諺があるように、無料で提供される何かには裏の思惑があるか、あるいは全く使い物にならないか、のどちらかではないでしょうか。よしんば、この発言をなさっている方々がひたすら良心的な講座を提供することしか考えていなかったとしても、今の時代、無料という声に群がってくる人たちが、魔術の基礎といった真剣な学びをできるような心構えを持っているとは、とても思えないのです。それも考えず、ただ闇雲に魔術は無料でと唱える方々は、社会人としてお金の価値をわかっているとは私には思えないのです。
元の話題に戻って。『魔女術実践学習ワークショップ』は、より深く、そして受講生同士の友情も育みながら続いています。二期生に間に合わなかった方々も、興味があればその次のチャンスに受講をお考えいただければ幸いです。