コートカードの重要性

垢抜けた占いを目指そう

タロットカードの中には、コートカードと呼ばれる人物を中心に描いたカードがあります。このコートカードは現代の解説書ではかなりバラバラの意味が当てられていることが多く、カードの存在意義そのものがわからない、と悩む人も少なくありません。実際にはコートカードの一番の使い道は質問者を示すとても重要な「象徴カード」、今風にいえば「シグニフィケーター」なのですが、それを使いこなせていない人が多い、という現状があります。

極端な場合には「象徴カード」には意味がない、とまで考えている人も見受けられます。これはとても残念な状態です。象徴カードに使うコートカードの枚数は、十六枚。七十八枚のうちの十六枚、といったらカード全体の約 20% を占める枚数になります。それほどのカードをしっかり使いこなせないとなると、大いなる損失!ここはしっかり活用法を追求しようではありませんか。

まず、コートカード自体に固定した意味があまり当てられていないのは、現代タロットの基礎を打ったゴールデンドーンで、このカードを人物「だけ」を示す象徴カード、つまり「シグニフィケーター」だと限定していたためです。そこにははとても大きな意味があるのですが、それが煩雑だと思ったのか、その後で出版された人気のあるウェイト版では昔のマルセイユ版と似たような意味が採用されてしまっています。それが混乱を招いている一つの要因でもあるでしょう。

とはいえ今回は、伝統的なマルセイユ版から生命の木の理論に沿った近代・現代タロット理論の整備において、ゴールデンドーンやフランス薔薇十字団が工夫を重ねてきた長い歴史や、ウェイト版の象徴カードの問題点はちょっと棚上げにさせてください。それよりは身近な、1970 年代からやっと始まったといっても過言ではない日本のタロット占いに目を向けましょう。初期の日本語タロット教本では、シグニフィケーターを「象徴カード」と呼んでいましたので、ここではその呼称に統一してお話しします。タロット占いの解説書が出されるようになってきた頃、この象徴カードはやや複雑なスプレッドに用いられて、特別感を醸し出していたことが多かった記憶があります。そして、使い方の特徴として、最初にその象徴カードを抜き出しておいて、真ん中や脇においてからスプレッドしていました。そして象徴カードとして使われていたのは、コートカードだけではなく、な、なんと重要な「愚者」という大アルカナを使ってしまったりもしていたのです。

これでは、確かに何の意味もない使い方になっていて、単にちょっと魔術的なムードを出すためだけの手法、などと誤解されても仕方がなかったでしょう。何といっても当時はゴールデンドーン系のタロットへのアプローチ方法がわかる書籍はあまり日本に入ってきておらず、原書を読める人にもあまり知られていなかったということもあるでしょう。

愚者が使われた理由

非常に重要な大アルカナである愚者を象徴カードとして浪費してしまうというアイデアは、現代のタロット用法から考えると不思議すぎることこの上ありません。でも当時の状況を俯瞰的に考えると、どうしてそうなったのかは比較的理解しやすいようにも思えます。前述したようにタロットカードに関する情報はまだまだ少なかった時代でしたが、その反面、ゲームや奇術ショーで馴染みのあった「トランプ」での占いはそれより前からかなりたくさんの情報が流れ込んでいました。そしてトランプ占いでは「ジョーカー」が象徴カードに使われることも多かったのです。今では「愚者」と「ジョーカー」は発生の経緯も全く異なるものだ、ということが判明していますが、当時はその表面的な類似性だけが取り沙汰されて、同一視されていたので、こんな混乱が起きていたのでしょう。ここでも結局のところ、そんなことになっていたのは情報が圧倒的に足りなかったから、ということに辿り付くのです。

実際、私もタロットを始めたばかりの頃は、この訳のわからない象徴カードの使用法を持て余していましたし、邪魔でしょうがないとも感じていました。でも、後に様々な情報にアクセスできるようになり、そこで色々と勉強するようになって、これってすごいじゃん!!と目から鱗がボロボロと落ちまくったのです。自分の無知を棚に上げて、象徴カードなんてどうでもいいや、とほざいていた過去の自分を、タイムマシンで戻ってタコ殴りに!と思ったほど、強烈なショックでもありました。まあ、そう考えると、いまだに「象徴カードなんてどうでもいい」と主張され続けているタロット占い師は、情報を収集していないか、ちゃんと研究していないか、ということになりそうではありますが。

象徴カードの利点

では具体的にコートカードを象徴カードとして使うと、どんな占術上の利点があるのでしょうか。ちなみに昭和の頃に説明されたような、象徴カードを先に抜いておく方法は間違っていると理解してください。その理由は七十八枚を使ってスプレッドしたときに、質問者の象徴カードが出てくるのか、否か。また出てきたとしたらどこに出てきたのか、が重要だからです。最初から抜き出して特定の場所に置いてしまっては、この大切な情報が失われてしまいます。スプレット時に出てこなければ、それだけで今回の問題が質問者の努力や尽力には無関係に進んでいくことなのだ、という状態が見て取れます。また、象徴カードが出てくれば、今度はどこに出てきたかで、問題の本質が見えてきます。例えば障害の位置に質問者の象徴カードが出てきたとしたら、これ以上はっきりした回答もない、と考えられるのではないでしょうか?

またそれ以外に、質問者ご本人からは話しにくい、あるいはご本人も自覚していない状況も見えてきます。ここでは男女比などが分かりやすく作られているので、ゴールデンドーン系のタロットを例に挙げて説明しましょう。そこでは基本的に年齢や社会的地位から成熟した大人と思われる男女には、キングかクイーンが。若い男女にはプリンスやプリンセスが当てはめられます。そしてその人が生まれたときの太陽星座のエレメントで、火ならばワンド、水ならばカップ、風はソード、土ならばディスク(ペンタクルス)のスートが割り当てられます。例えば、火のエレメントの射手座生まれの既婚女性ならば、ワンドのクイーンといった感じですね。

しかし、このワンドのクイーンが象徴カードになるはずの女性を占っても、なぜかワンドのプリンセスが重要な位置に出てきてしまう、といった現象も時々、起きてきます。このような場合は、この人が年齢相応の人生経験や思考能力、他者への思いやりなどを培ってきていないのだろう、ということがわかります。逆に、まだまだプリンセスのはずのティーンエイジャーなのに、占ってみるとクイーンがでてくることも。すると、実はヤングケアラーとして一家を背負って立っている、といった重たい状況が見えてくることもあるのです。どちらの場合も、質問者ご本人にとっては、当然の状態、自分はこういう人間、と刷り込まれてしまっているので、あえて口に出すことがありません。でも、象徴カードをちゃんと読み取れば、本人さえ気づかない問題点を適切に読み取ることが可能なのです。

また、よく使われている象徴カードの例として、好きな人が浮気をしているのではないか?といった占断をするときがあります。付き合っているのは自分だけのはずなのに、相手の様子がおかしいので占ってみると、相手のカードを取り巻くように異性の象徴カードが何枚も出てきた、これはきっと浮気だ!ということでよく例に挙げられるものです。でもこれも、どのカードを浮気相手と特定するか、ということがちゃんとわかっていないままに使うと、墓穴を掘ってしまうことも。例えば、病気の母親を看病している男性には、クイーンのコートカードが身近に出てくることは少なくありません。それを浮気してますね、などとリーディングしてしまえば、取り返しのつかないことになってしまいます。

非常に有用だけれど、それだけにちゃんとした使い方と理論がわかっていないと宝の持ち腐れになってしまうのが、象徴カードでもあります。ちょっとだけ宣伝になりますが、象徴カードの詳しい使い方は、私のタロット講座でしっかりお教えしています。興味のある方はのぞいてみてくださいね。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!