占い師になりたいならば

簡単ではありません

ここ数年、これからお話しするような相談がとても増えているような気がします。その度に、真剣に回答したり、SNSなどで私の正直な見解を公表してきました。ただ、何度も繰り返しているうちに、細切れで色々なところに引用されるようになっているようなので、誤解を避けるためにまとめてここでお話ししようと思います。これはあくまでも私自身の考えであり、絶対にこれが正しい、などと主張するものではありません。

その多い相談とは「子供の手も離れて、自分も四十代になったので、これまでの人生経験を活かしながら、少し占いを学んで占い師になりたいです」「で、私は占い師になれますか、成功しますか」というものです。しかもさらにはその上をいって「どんな占術ならば、手っ取り早く覚えられて、たくさん稼げますか?」などという空いた口が塞がらないような、下品な質問まで飛んでくることがあるのです。

どこをとってもツッコミどころが多すぎる相談ですが、一つ一つ、解析していきましょうか。まずしっかりした占い技術の上に人生経験からの例え話、は有益ですが、それなしでの個人の人生経験なんて、屁の突っ張りにもなりません。それはたんなるオッサン・オバサンの偏見の押し付けにすぎません。

稼げる、とは

占いで手っ取り早く稼ぎたい、などと思っているのでしたら、大きな間違いです。タロットを並べて話をしているだけに見える占い師は、一見、元手もほとんどかかっていないように見えるでしょう。適当に調子の良いことを言っているだけに見えるかもしれません。でもほとんどのプロ占い師は、家が一軒たてられるほどの資料代を自分に注ぎ込んでいるのです。成功、も同じですね。テレビに出たいとかたくさん稼ぎたいと思うならば、これほど的外れの職業もありませんから。

占いは「少し」学んだだけで、どうにかなるものではありません。壮大な学問である上に、一種の芸術です。しかも、人の運勢に助言をするというとても責任の思い仕事です。今、第一線で活躍している人たちは、多くの場合十五歳より前に占いにのめり込み、そして、目標に向かって駆け出しています。ギター小僧がやっと買ったエレキギターを指から血が出てもかき鳴らし続けるように、寝食を忘れて占いや神秘世界に駆け出し、駆け続けているのです。質問をしてくる人たちが、今四十歳だとしたら、単純に二十五年、遅れをとっています。しかも、四十歳はまだまだ若いとはいえ、十代、二十代とは記憶力も体力も違います。質問をされている人がこれから全力で駆け出しても、スタートラインさえ遠く見えるだけかもしれません。

そうお話ししすると、多くの人が「今からそんなに偉い先生になる気はありません……」と回答してきます。でも先述したように、占い師は弁護士や医師のように、人様の人生に口を出す仕事です。言葉一つで相手が命を経つ危険もあります。だからこそ、皆、立ち止まらずに駆け続けて学び続けるのです。孤独なマラソン競争ですが、それが嫌だったら、プロになどなれません。あなたは「別に人を治せなくても良いや」と開き直る医師、「問題なんて解決しなくても構わない」などと脱力している弁護士に自分の問題を任せたいですか?

Time

私はこの手の相談を受けるたび、いつもピンク・フロイドの「 Time 」という名曲が頭の中で鳴り響きます。要約すれば「いつか誰かが駆け出すサインを出してくれると思っていたら、いつの間にか十年も経っていた。スタートを切るピストルの音を聞き逃してしまった」という曲です。

そう、あなたが何かをするためのサインなんて、第三者が出してくれるものではないんです。第一、本当に何かになりたいならば私の答えなんぞ待たずに「駆け出す」のではないでしょうか?誰かが駆け出すサインを与えてくれると思っているならば、どうせなにもできません。また十年が無駄にすぎるだけ。

もちろん、四十歳や五十歳から大学に入る人もいます。この世の中に、若くなければダメということなんて、全く、何もありません。でもその年から始めるのであれば、それだけ遅れをとっていることと、その遅れを取り戻すためにどれだけ死に物狂いで駆け続けなければならないか、を肝に銘じるべきです。そして誰かの許可なぞ待たずに駆け出すこと。

ここまで読んでげんなりしたら、好きな占いをゆっくり学んで「ファン」でいることだって可能ですし、楽しいと思います。誰もがプロになる必要はありません。でもプロになりたいならば、それなりの覚悟は必要なんです。そしてそれは「一週間でプロになれる」などという胡散臭い講座に大金を投じることではありません。簡単になれる、ちょっとだけでいい。そんな甘ったれた気持ちを排除して、最後まで徹底的に走り続ける覚悟。それがあるかどうかを、ご自分に問いかけてみましょう。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!