災害とオカルト

魔術的思考は活かせるのか

このたびの令和六年能登半島地震により犠牲となられた皆さまに、心よりお悔み申し上げるとともに、被災された皆さまとそのご家族、並びに関係者の皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。今回はこの悲劇をなんとかしたいと切望しながら、何もできずに焦燥感と闘っている多くのオカルティストに読んでもらいたいです。

元来、オカルティストなんていう肩書きは、実際の生活でなんら役に立つものではありません。占い師も同様です。そのことをしっかりと実感した上で、一般的なルールに従って救済や復興に力を出していこう、という人たちが大半でしょうし、それならば問題はないでしょう。しかし、中には(特に占いなどを仕事としている場合)日頃、周囲の人から「ありがとう、助かりました」などと言われ続けて、ご自身に間違った万能感を抱いてしまっている方もおられる模様。そうなると、こうした大規模災害の際に「私が救う!」とばかりに祈祷会を開いたり、儀式を行ったりする場合が少なくないようです。

まず、祈祷も儀式も、それ自体は何も悪くありません。とはいえ、それをすることで自分が何かプラスになることを達成した!と自己満足してしまって、それ以降はなんら具体的な行動も起こさず、ひたすら悦に入っているという情けない状態になってしまうと、もうお話にならないのです。正直、祈祷をするだけで現地に復興をもたらせるほどの力がある方はいないでしょう。

極端な場合は、自分には天候を変えるほどの神通力があるから効果はあるとか、これ以上の余震を止めるように祈願した、などと各種 SNS 経由で豪語するような方も見受けられます。どんなに強い何かを持っていようとも、自然の行いを人が止められるなどと思い上がるのは根本的に道を踏み外した考えであり、オカルティストの風上にもおけないとしか言いようがありません。こんな行為は、現地で苦しんでいる方々を見下し、傷つける行為に他なりません。

「祈り」には意義がある

では一日も早い復興や人々の無事を祈るのは?という疑問も湧いてくるでしょう。祈りの力や意義についてここで深いりする余裕はないのですが、大きな悲劇を前に自分が具体的にできることが何もない、と絶望した際、せめてなんとか、という気持ちで宇宙のより大きな力に向かって手を合わせるのは、人間として本能的な共感の行為だと思います。祈りが現地に届くはどうかともかく、祈る人の心に今現在苦しんでいる人々への想いと共感を刻み込み、今後の行動への決意を促すことにもつながるはずです。また、そわそわと方法もわからず動き回って、募金詐欺などに引っかかってしまう危険も少なくなります。とはいえ「祈り」とは、とてもプライベートな行為。自分が祈ったからどうなった、などと言い立てるものでもありません。

こうして考えてくると、地震や台風などの一大事に対して、魔術のトレーニングや学習などは全く役に立たない時間の無駄、でしかないのでしょうか。

まず、自然災害に対して人間ができるのは「備えること」しかありません。でもこの点には、魔術作業のテクニックが活かせる可能性があります。

地震で戸棚などのものが散乱しないようにする、寝室には倒れてくるようなものはおかない等々、の一般的な注意がありますよね。それに加えて最近では、救援が来るまでの家族全員の三日分以上の飲料水、一週間分以上の食料、トイレットペーパーや生理用品といった日用品も備蓄するように、といった情報も出回ってきました。そう、確かに政府機関のホームページなどに行けば、そうした情報は「ある」でしょう。しかし、いざそれを自分のため、家族のために実践しようとすれば、机上のデータだけでは不足するのも確かでしょう。持病がある方ならば、常備薬なども必要ですし、家族に体が不自由な方、あるいは乳幼児などがいれば、それこそ山のように必需品が積み上がって途方に暮れてしまうのではないでしょうか。

それでなくとも狭い日本の住宅でそうしたものを十分に備えられるスペースの確保は困難でしょうし、備蓄品を購入する費用だってバカになりません。結果的に、悩みに悩んで、かろうじて持てる分だけを揃えて「あとはなんとかなるだろう」と開き直るしかない、といっても過言ではないような気がします。でも「いざ!」という時をより正確に予想するには、意外にも魔術のトレーニングが役に立つ場合があるんです。ただし、これは災害のトラウマや心理的なプレッシャーが少し薄れた頃に実行してください。

今後の備えには

例えば、寝室には倒れてくるものを置かない、という場合。寝室の真ん中に立って深呼吸をしたら、目を閉じて地震の際のアクティブ・メディテーションを実施してみましょう。ちょっとした効果音なども入れてみるとより効果的です。そうすれば、否でも応でも、その部屋が地震のときにはどんな惨状になるのかが脳裏に浮かんでくるはず。それにそって、具体的に配置を考え直すことができます。

自分の家族に必要な一週間分の食料は?とリストに書き出すだけではなく、これもまた、災害時の家族の食事風景を目を閉じて想像してください。辛い風景なのはわかりますが、単に数字と睨めっこするだけよりも、きっと多くの情報が得られるでしょう。そしてなによりも、外から与えられた情報ではないという臨場感が、あなたに確信と実行力を与えてくれるのは間違いありません。

そしてもちろん、日頃から瞑想などの練習をしていることで様々な呼吸法もトレーニングしているはず。何気ない基礎の習慣が、そのときがきてしまったとき、落ち着いた行動をとるための助けになるはずです。

魔術を現実まで広げよう

とはいえ、これだけではどうにも心許ない、というのも本音でしょう。その不安感を突き詰めてみれば、現実的に何かできることが身についていないから、というところに集約されるような気もします。だからこそ、日頃の自分の魔術トレーニングに、緊急救命処置や、避難所までへのウォーキング、ご近所の皆さんとの関係構築、といった現実的なプログラムも組み込んでいきましょう。

自分が何をどうやって動けば良いのか。それがはっきりとわかっているとき、人間は自信を持って効率的に動くことができます。いくら頭の中で何度もイメージしていたとしても、自分の体を動かして覚えたことには敵いません。毎日は忙しすぎるし、そんな余裕と体力はない、と思うかもしれませんね。でもそれだからこそ、自分のできることを少しでも見つけだしていく。それもまた、魔術的な作業だと思います。

暗く締め切った部屋でインセンスをたいて呪文を読み上げる。それだけが二十一世紀の魔術ではないはずです。非常時はもちろん、日頃から全体的に効率よく動ける人間へと、自分を変革していく魔術を作り上げていこうではありませんか。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

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